2001年シーズン、朝日岳での遭難・事故その他発生状況について
2002-01-17
日程に余裕を持った、無理のない計画を立てましょう!!』
…我が家の玄関の様子、写真は「朝日平から雪倉岳・白馬岳・旭岳」
富山県警は15日、昨年の入山・遭難状況をまとめ発表しました。入山者は前年を下回ったのに、遭難発生件数・遭難者数ともに、過去最多だったそうです。
そこで今日は、2001年シーズンの朝日岳での様子を振り返ってみたいと思います。
(1) 7月17日 女性(57歳)…転倒し右足大腿部骨折、全治3ヶ月の重傷
→ ヘリコプター出動
同日午後4時ごろ、白馬岳〜朝日岳〜北又を縦走中の女性5名グループのリーダーが、朝日岳頂上から下山中、朝日小屋までわずか300メートル程の「水谷のコル」付近の木道で足を滑らせ転倒。救助隊員でもある木村君(哲也)が背負って運び、一晩小屋で待機しシーネ(副木)装着の応急処置をした上、翌朝8時前にヘリコプターで病院に収容された。
小雨が降りガスっていた夕方で木道は滑りやすくなっていて、小屋を目前にしての安堵感と疲労が一瞬の油断となったと思われる。
(2) 7月19日 女性(50代)…転倒し右手親指亀裂骨折
→ 自力下山
同日朝日小屋に到着の7人パーティーの1人が、「朝、蓮華温泉を出発して30分程歩いた所の木道で転倒して、右手があっという間に腫れてきた」と相談に来た。シーネ(副木)を装着し三角巾で固定したが、蓮華温泉〜朝日岳〜白馬岳のコースなので、翌日は水平道を歩いていく予定だという。
片手が使えない不安定な状態で縦走を続けるのは賛成できないと話した結果、パーティー全員が蓮華温泉へ下山する事になった。
普段はあまり使用しない「ストック」を使っていて木道で転倒した際に、とっさにうまく手がつけずに、手のひらが裏返ったようになった為だと本人の弁。
(3) 7月27日 女性(69歳)…転倒し左足首骨折、全治3ヶ月の重傷
→ ヘリコプター出動
同日午前10時半ごろ、白馬岳〜朝日岳〜蓮華温泉を縦走中の女性2人パーティーの1人が、五輪尾根を下山中木道で足を滑らせ転倒し動けなくなる。木村(哲也)隊員とグリーンパトロールの4人が蓮華温泉方面を合同パトロール中に偶然発見し、朝日岳頂上まで交代で背負って運び、県警ヘリでピックアップし病院に収容した。
このケースでは、負傷者を現場に残し同行者が救助の連絡に下山しているのだが、事故現場は朝日小屋から2時間足らずの地点であるにもかかわらず、同行者は蓮華温泉まで下りている。蓮華温泉へ第一報が入ったのは午後4時過ぎ、負傷者はすでに午後1時過ぎには搬送されている。偶然発見され迅速な対応が出来たから良かったが、もし夕方以降まで負傷者が放置されていたらと思うと、事故が起きた際の的確な状況判断の必要性を感じた。
(4) 10月10日 男女計4名パーティー(70代リーダー、他は50〜60代)
… 道迷い、翌日自力下山したが、富山・新潟両県警による捜索。
→ ヘリコプター出動
白馬岳〜朝日岳〜蓮華温泉の縦走コースで、9日は夕方5時半になって朝日小屋到着。かなり遅くまで部屋でくつろいでいらっしゃった様子。
翌10日朝は6時半ごろ朝日小屋を出発したが、蓮華温泉に宿泊予約していたにもかかわらず、午後8時半になっても到着していないと家族から連絡があって遭難したのではないかと判明した。
蓮華温泉のオーナー達が、深夜の登山道を「白高地沢」まで捜索に出たが発見できず、11日は富山・新潟両県警が早朝から、ヘリでの捜索活動を開始した。その最中、本人達から「高浪の池」へ自力下山したとの電話連絡が入る。(午前8時半)
直接の原因は、蓮華温泉への下山予定が、「吹き上げのコル」で間違って「栂海新道」への道を入ってしまった為である。(多分、雨と強風の為に、雨具の帽子で顔を覆いながら歩行していて標識を見失ったのではないか)
しかし、いくつかの問題点を挙げれば、
ア、「早出早着き」の原則が守られていない。夕方5時を過ぎて小屋に到着する等10月の登山では避けるべきだ。
イ、 地図も携帯していたし、「照葉の池」などで道に迷った事にすぐに気付くべきだったのではないか。(気付いていたが、引き返さなかったのか)
ウ、 体力・技術に合った縦走計画だったのか。70代のリーダーの他は、高山の経験が乏しい殆ど初心者だったと聞いている。まして、夏には賑わう朝日岳も10月の小屋閉め頃には行き交う登山者の数も限られているので、様々な点を考慮して山行計画を立ててほしい。
この他にも、全身に蕁麻疹が出た方や、気管支喘息の発作を起こした登山者の方も出ました。また、深夜勤務明けで夜行列車で登山口に向かい、縦走途中で食事もノドを通らない程極度の疲労で発熱し、連泊していかれた方もいらっしゃいました。
ヘリコプターも3度出動しましたが、不幸中の幸いというか、死亡事故・遭難はなく、ケガをされた方々も今はリハビリに励んで杖無しで歩けるようになられたと聞いています。
しかしどの事故もちょっとした油断や不注意、あるいは無理な行動計画が原因と見られるものばかりです。特に朝日岳周辺は、高山植物の保護の為「木道」を設置してある箇所が多いので(特に新潟県側・蓮華温泉コース)、『木道での転倒事故』が目立ちました。「中高年の登山ブーム」と言われる中、考えさせられるケースばかりでした。
県警山岳警備隊、特に古崎隊員や朝日岳方面救助隊、事務局の皆さんには大変ご迷惑をお掛けしましたが、いろいろ有り難うございました。
また医療の知識が必要な場面では、私の主治医のY先生にいろいろお力を貸していただきました。シーネの装着や服薬の指示等など、電話で指示を受けながら負傷者や病人の方に適切に対処することが出来、本当に感謝しています。
そして救助隊員の木村君(哲也)をはじめ、4人のグリーンパトロール(学生)、そして小屋のアルバイトのみんなはどの時も頑張ってくれました。本当に有り難う!!
朝日小屋としても、管理人の立場としても、様々な教訓を2002年のシーズンに役立てていきたいと思います。
この記事の URL : http://asahigoya.net/diary/2002/01/d20020117a.html