まさこさんへ…
2003-07-16
まさこさん、先日は朝日小屋にご宿泊頂き、本当に有り難うございました。
多分間違っていなければ、あの暴風雨の最中に白馬岳からのコースを辿られたお二人連れだったのではないでしょうか。
そして、昨日は掲示板にも書き込みをして戴きました。正直言って、前日の深夜に書き込みの文章を拝見した私はかなり落ち込み、今日は午前中ずっとそのことばかりを考えていました。
そして、私の応対の仕方の拙さが、まさこさんを不愉快にし、せっかく楽しいはずの山行を台無しにしてしまったことを深く反省しました。
私の至らなさや細かい配慮の無さで、ご迷惑をお掛けしたことについて、本当に申し訳ありませんでした。
ただ、少し言い訳じみてしまうかもしれませんが、私の不手際は深く反省しつつ、今回のことについてもう少しお話しさせて頂けませんか?
あの日は、蓮華温泉から登って来る予定のグループが1組だけご予約されており、大変な悪天候になったこともあり、「まさか、こんな日に白馬からのお客様はないだろう。ご予約も入っていないし」というのが小屋の予想でした。
蓮華温泉グループについては、朝日小屋にも何度もお泊りになっているベテランがリーダーでしたのでそう心配はしていませんでしたが、それでも夕方5時になっても到着されないので蓮華温泉に電話を入れて出発時間を確認し、そろそろ着くだろうと話していました。
当日は朝から雨も風も大変激しく止み間無しに続いていました。この時期の2,000mを越える山岳地帯での悪天候は、ベテランでもたじろいでしまう位ですから、あの日の白馬岳からの遮るもののない稜線歩き、ホワイトアウト状態の中での雪渓のトラバース、雪倉岳山頂付近での突風、そしてロングコースでの体力と気力の消耗は相当だったと察します。
私が当日の受付で、開口一番どんな言葉をまさこ達に投げかけたかは、申し訳ありませんがはっきり覚えてはいません。
しかし、確か夕方5時半近くに、予想もしていなかったお客様が到着された事で、実際には私自身ビックリすると同時に少々慌ててしまったのかもしれません。
実は、私は「時間がかかりすぎ」と言った覚えはないんですょ。夏のシーズン中でも、白馬岳〜朝日小屋のコースで、10時間以上かかっていらっしゃるお客様は珍しくはありませんから。
ただ、お顔を見てすぐ、「到着時間が遅い」というような意味の事を言ったのではないでしょうか。確か「白馬岳を何時に出発されたのですか?」と聞いて、多分(はっきり覚えていないのですが)「それは、出発時間が遅すぎる。もっと早く出なくては」というような事を喋ったのではないかと記憶しています。
でもまさこさん達にすれば、やっと辿り着いた楽しみにしていた朝日小屋で、開口一番注意をされたということが、疲れた身体と心に相当堪えられたのだと思い、私自身の物言いの拙さ、そして自分自身の未熟さ、管理人としての配慮の足りなさをつくづく思い知らされ、今回は率直に反省させられました。
でも、まさこさん。『この時期のこのコース、やはりもう少し考えて行動されたほうが良いですよ』というのが、この朝日岳周辺の山域を預かる私からの願いだったという風に受け取っては頂けないでしょうか。
当日は、「夏山事前パトロール」の直前だった為に、雪渓上のマーキングもなく登山道が不案内だったこと、シーズンに入ってからまさこさん達が『白馬岳から2パーティー目』(例年より、少ない)で踏み跡もなく、行き交う登山者も無かったこと、等など、天候以外にもこの梅雨時の山歩きの難しさを痛感させられた場面がありました。
ご予約がなかったので、事前の登山道や残雪の情報をどこまで正確に知り得ていらっしゃったかも疑問です。
ピッケルやアイゼンの必要性も、確かにホームページには載せていませんでしたが、小屋としても悪天候が続く中で登山道の確認にも出られない毎日が続いていたのも確かでしたので、情報の発信が後手後手になってしまった点もあります。
あの日のあの暴風雨の中、10時間も行動されて、体感温度も下がり疲労も極限に達するほどになる場合も考えられます。お二人とも無事に小屋に到着されたから良かったものの、もしどちらかが歩行不能の状態に陥ったとしたら、あるいは道迷いや事故が発生していたら…考えただけでもゾッとします。
もし夕方から夜にかけてのあの時間帯に、遭難や事故が発覚したとして、それ以降のことは当然この朝日小屋が対処に当たるわけですが、それも早い時間帯であるのと、夜にかけてのことであるのと、状況は全く大きく変わってくるのです。
高校生の頃から父と一緒に山小屋で生活し、登山者の皆さんの様々な出来事に現場で対応し、いろいろな場面を見て来ている山小屋管理人だからこその苦言だと思って頂くわけにはいかないでしょうか。
確かに、まだ雨具を着けたまま疲れた様子のまさこさんの顔を思い出すと、受付でいきなり「注意」「苦言」を吐いてしまった自分が、今更ながら悔やまれます。
でも私は、いつまでもブツブツと文句を言っていたわけではないと思っているのですが、如何だったでしょう。
あの日は、蓮華温泉からのお客様もずぶ濡れになって来られるはずだから、「今晩は、夕食に温かい鍋でもしよう!」とみんなと相談し、魚の入った具沢山の鍋を用意していました。当然、まさこさん達が到着されてからは、厨房に指示してすぐに2人分の鍋の用意を追加しました。
2階の廊下にもストーブを焚いたり、部屋もお二人だけに入ってもらうなど、小屋としてできるだけのことはしたつもりでした。
また翌朝は、確か蓮華温泉へ下山されるというお二人に「吹き上げのコルから下は未だかなりの雪渓が残っていて、トラバースも危険だから、もし危ないと判断したら小屋に戻って来て下さい」と送り出したと記憶しています。
今回のことを反省点として、私もまだまだ様々な勉強を重ねて、山小屋管理人として大きく成長していきたいと決意した次第です。
今更、何をどう言い訳しても取り返しはつかないのかもしれませんが、「もう10年以上行かなくていい」などとおっしゃらないで、今度はぜひ余裕を持った行動をされて、お天気の良い時期に楽しい山行をされることを切に切に願います。
朝日岳は素晴らしい山です。
そこに建つ朝日小屋は、いつも笑顔で、温かくお客様を迎える山小屋であり続けたいと、そう思っている私です。
この記事の URL : http://asahigoya.net/diary/2003/07/d20030716a.html