北アルプス 朝日小屋

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凍てつく稜線を行く…烏帽子小屋〜三ッ岳〜野口五郎小屋

2003-11-22

真冬の様相    標高2,800m近い稜線で    03.10.31

 真冬の様相    標高2,800m近い稜線で    03.10.31

 「明日、明後日とこのままお天気が持ちそうなので、野口五郎岳へ行きましょう」
 「はぁ。。。私でも行けますか。。。」
 「ダメだったら、引き返します」

 夏だったら快適な稜線歩きも、雪が付いて強い風が吹く高山では、ガイド役の森下さんの的確な判断にある程度は任せるとしても、一体明日はどんな山でどんな危険な目が待っているか分からず絶対大丈夫とは言い切れない中で、不安感を完全に拭い去れずに烏帽子小屋の夜を過ごした私です。
 森下さんは、日の出を待って再び昨日の南沢岳へ撮影に出発。午前中には帰るから、出発は昼食後すぐと決まりました。
 私は、野口五郎岳行きを前にあまり疲労しない方が良いのではという考えから、午前中は“沈殿”することに。お天気も良く、シュラフに入ったままゴロゴロしたり、だあれもいない小屋の周りをウロウロしてみたりして半日過ごしました。
 森下さんが戻られて、軽く昼食を取ってから出発となりました。
 烏帽子小屋から三ッ岳までの砂礫の稜線歩きは、なかなか快適でした。雲も無く、ずっと燕岳から大天井岳への連なりが見え「今歩いているのが“裏”、あれが“表”ねぇ…」などと景色を楽しみながらの稜線漫歩が続きました。途中、白く雪を戴いた槍ヶ岳の勇姿を大きく確認することができ、嬉しかったです。
 しかし、順調に進んだ稜線歩きも、三ッ岳のピークの黒部側を巻く時になって雰囲気が一転しました。
 岩稜と白砂の山。急勾配で切れ落ちている斜面に付いている登山道では、大して積もっているわけでもない雪が、ガチンガチンに凍っています。キックステップなど出来るようなモノではありません。
 森下さんがピッケルで、まるで氷のような雪をひと足毎にカッティングし、靴のつま先がやっと掛かるくらいのステップを切ってくれて、岩に掴まり、慎重にバランスを取りながら注意深く一歩一歩進みました。
 
 『ここを滑り落ちたら、死ぬかもしれない。。。』
 
 そんな恐怖心の中、「ゆかりは、未だ山の怖さを知らない」と誰かがいった言葉を頭の隅に思い浮かべながら、神経を集中して通り抜けました。
 「ここを通過したら、後は大丈夫です」…森下さんにそう言われながら、もう少しもう少しと歩を進めると、右手前方に連なる水晶岳がぐっと大きく迫って来て、また野口五郎岳への確かな道のりも見えて段々と近づいて来ました。
 野口五郎岳に着いた頃は、そろそろ陽が沈み始めようかという時分。元々いつでも強い風が吹くという野口五郎小屋付近なのだそうですが、もの凄い強風が吹いていました。
 
 「頂上はどうします?」
 「はぁ。。。山頂は、この次にします」
 「それじゃぁ、今回の山行は“烏帽子岳・野口五郎岳”ではなく、両方のピークを踏んでいないんだから、“烏帽子小屋・野口五郎小屋”ですネ」
 
 日没近くに小屋に着いて、しばらく続いた恐怖と緊張感から解放された安堵感、また寒さもあったからでしょうか、またも軟弱な言葉を返してしまった私です。(苦笑)
 野口五郎小屋も、その一部が冬期小屋として開放されています。今日も、森下さんと私の他には、誰も利用者はナシ。前日の烏帽子小屋に比べると、少し風の音が大きくはありましたが、それでも快適な冬期小屋には違いありませんでした。
 明日またあの三ッ岳のトラバースを通過しなくてはいけないのかと思うと、なんとなく嫌な気分も。「まさか、今日以上に困難だということにならないだろうか」なんていう思いも過ぎりましたが、「その時はその時か、何とかなるさ!」と半ば諦めて、簡単に夕食を済ませた後休みました。