北アルプス 朝日小屋

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『新しい発見』

2002-10-01

 雪倉岳山頂から 手前に鉢ヶ岳、そして白馬岳・旭岳の勇姿

 。。。あんなに「雪倉岳の登りは絶対登りたくない、長すぎる、歩きにくそうな斜面だし私は嫌だナ」と何度も言っていたのに、いったいどういう心境の変化ですか??。。。  
 先日、私が白馬岳へ行って来たと聞いた時の、写真家・森下 恭さんのひと言です。
 繰り返し書いていますが、私は登りが大の苦手。。。下りはわりと軽快に足を運ぶことができても、いつも登りになるととたんにギアがスローダウンしてしまって、“カメさん”か“かたつむり”に大変身!!
 だからお客様がコースを問い合わせて来られても、必ず「雪倉岳の登りは、相当キツイですヨ」と先ず口に出てしまいます。
 その私が、哲也や孝太に「ゆかりさん、今紅葉がいいですよ。ぜひUさんと行って来たら!?」と勧められて、ウッカリその気になってしまったから不思議。いつもは山仲間の後をくっ付いて行ったり、誰かしっかりしたパートナーが一緒でないと遠出はあまりしませんが、今回は「雪倉の登りを歩いてみよう…」と思ったのです。
 そして今回出掛けた白馬岳への道のりで、何かいろいろ『新しい発見』をしたような気がします。
 
 ひとつは、『私は本当に登りが大嫌いなのかしら?』
 北又から恵振山の急登は、小さな頃から何度も通った道なのであまりその苦痛を感じません。しかしいざ他の山を登る時、「自分は足が遅い」という固定観念からか他の皆さんのペースをどうしても気にして、自分の歩きを乱してしまうことが多いのですが、今回は同行のUさんにも「ゆっくり行こうね」と言いながら、私が先導して一歩一歩登りました。
 昨年から何度かガイドしてもらっている森下さんから、「慌てないでいいんです」「坂の途中であまり立ち止まらないように」「無理して大きな歩幅をとらないように」…等など、いろいろ教えていただいたことを思い出しながら、ひどくて息が乱れそうになると、歩幅をもっともっと小さくして呼吸を整えながら、それでも立ち止まらないように歩き続けるように気をつけました。
 お天気が良かったせいもあるのでしょうが、雪倉岳のキツくて長い道のりも、コースタイムを少しオーバーしたくらいで登りきることができ、最後の鉢ヶ岳〜三国境〜白馬岳山頂はコースタイムより早く歩くことができました。荷物もなるべく軽くしたからでしょうか、あまり「辛い」という感じがなかったように思います。
 
 もうひとつは、『登りと下りでは、見えるもの・見えてくるものも違うし、感じ方も違う』
 辛くて苦しい坂道を登っている時でも、可憐に咲いている道端の花や、景色の変化には目がいくことがあるものです。特に、ゆっくり歩いている時にそう思うことがあります。登りと下りの歩くスピードにもよると思いますが、下りではうっかり見逃してしまいそうな雲の流れも、前を向いて歩いている時にはふっと感じることができるかもしれません。
 また、水平道の雪倉側分岐から朝日岳山頂までの道のりも、登りと下りではこんなに感覚が違うんだなあ、とあらためて思いました。自分の身体が、いろいろな場面で様々に敏感に反応していく様がわかって、とても不思議でした。
 
 そして、『山を、正面から感じることができた』
 私は小さい頃から通い慣れた、北又からの道のりが大好きです。朝日小屋から朝日岳山頂までの道のりも、何度通っても楽しいと感じています。深い山の、緑の濃い匂いがたまらなく好きです。ブナの樹々の間を、そしてダケカンバやオオシラビソの樹林帯の中を、6月の山開きの頃や秋の小屋閉めの頃、それぞれの季節を感じながら歩くのが、本当に大好きです。
 しかし北又からの道のりでは、恵振山の頂上まで登らないと朝日岳や前朝日岳の山容ははっきり望めませんし、夕日が原まで来てしまうと、その山体も姿を変えてしまいます。
 今回の白馬岳山行では、朝日岳のどっしりと女性的な山容が眺められましたし、懐の深さもあらためて思いました。また、雪倉岳の大きな山体がその時々にドーンと迫って来て、「ここを登るのか。。。」そう思いながらも、不思議と自分の中に“挑戦する勇気”が湧いてくるのが感じられました。
 また雪倉岳を越えてからも、白馬岳や旭岳の堂々としてしかも凛とした姿がずっと目の前にあって、「この山を登る」というはっきりした意識が沸々と湧いて来ました。この思いは、下りの時に振り返って白馬岳を見遣った瞬間には感じることのできない思いなのではないかと考えました。
 
 「私、登りが苦手で…」と言ったら、「“山登り”って言うくらいだから、やっぱり山は登らんとねぇ」と笑っておっしゃったのは、大日小屋のお母さん・光子さんでした。
 いろいろな想いや感じ方を教えてくれた今回の白馬岳山行、本当に楽しくまた有意義でした。やはり管理人、自分の山はもちろん、いろいろ歩かなくてはいけません。
 小屋閉めしたら、どこの山へ行こうかなぁ…(笑)