北アルプス 朝日小屋

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一日で駆け抜けた、憧れの「栂海新道」

2009-10-06

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晩秋の雰囲気、照葉の池付近から見る朝日岳  09.10.5

 昨日(5日)、番頭さん・ミゾテと料理長・ガリの二人は、朝日小屋を出発してその日のうちに「栂海新道」を親不知・日本海まで下りました。
 夕方親不知に到着後は、北又まで車で回送してもらい、昨晩は北又小屋泊まり。

 そして今日(6日)、お昼過ぎに二人は小屋に戻って来ました。

 …果たしてそれは、彼ら二人にとって、 「ちいさな旅」だったのか、はたまた「過酷な修行」だったのか、「有意義な研修」だったのか、足で稼いだ「貴重な出張」となったのでしょうか…

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長栂山では、グリーンロープの撤収

 事の始まりは、4日の夕食時のこと。

 「ねぇ、長栂山まで、グリーンロープを外しに行かなくちゃならないんだよね。どうする?
  ガリ、行きたがっていたし。雨が降らないのは5日だけかもしれないから、行ってくる?」

 「お客様のご予約も無いし、一年に一度だから、ピクニックを兼ねたりしてみんなで出掛ける?
  …(小屋を留守にして)」

 そんなこんなを相談していたところ、

 『栂海新道を、全部歩き通して日本海まで行ったことが無いので、行ってみたい!』という話に…。

 「じゃぁ、行く!? でも、相当キツイよ。
  確実にコースタイムの半分で歩ける人でないと、栂海新道を一日で挑戦しようなんて無理だわ。
  それに、時間だけじゃないょ。最後には、とにかく嫌になるくらい、長いんだから。
  栂海山荘や白鳥小屋に泊まるならともかく、一日で抜けるにはそれ相当の覚悟も必要だし。
  貴方たちだったら、栂海山荘までなら問題なく大丈夫だけど、その後の栂海山荘から白鳥小屋までのアップダウン、金時坂の大変さ、坂田峠から先の長さと最後の辛さ、これは歩いたことのある人間じゃないと分からないなぁ」

 …そんな社長(私)の、半ば“挑発的な”言葉に、余計に気持ちを触発されたのか、二人は「栂海新道」を一日で駆け抜けることになりました。

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元気なガリ、長栂山(2267m)山頂にて  コースの確認をしながら

 5日は、早朝5時半過ぎに朝日小屋を出発。
 とにかく荷を軽くして、という“社長命令”で、必要最低限の荷物。とにかく、いやでも親不知に辿り着かなくてはいけない計画です。

 長栂山では、グリーンロープの撤収作業。

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池塘も、秋の佇まい  黒岩平にて

 紅葉も盛りを少し過ぎた感のあった、アヤメ平・黒岩平だったようですが、秋の終わりを感じさせる雰囲気に、夏の暑い暑い頃に、黒岩山まで草刈りに行ったことが思い出されたことでしょう。

 黒岩山から先は、二人とも“未知の世界”。

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番頭さん・ミゾテ  かなり真剣な様子  サワガニ山(1612.3m)にて

 もちろん、楽しみだけの“個人山行”ではありませんから、ちゃんと地図でポイントを確認し、コースタイムも計測しながら歩きました。

 犬ヶ岳山頂からは、無線連絡が入りました。とても元気な様子。

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「栂海山荘」  ここからは、朝日岳もはっきり見える

 栂海山荘では、中の様子も要チェック。朝日小屋で宿泊された登山者の皆さんが、次に向かわれる場所ですからね。

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「黄蓮の水場」で水を補給する、番頭さん・ミゾテ  水量もかなりある

 「黄蓮の水場」では、水場の様子もちゃんとチェック。降雨の後だったので、水量はかなりあったようで、この10月3連休も安心できるようです。

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白鳥山(1286.9m)と、白鳥小屋

 白鳥小屋も、とても整理されて綺麗に使われている様子でした、との報告。白鳥小屋では、携帯電話も通じることを確認。

 「シキワリの水場」も、大丈夫との事。

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日本海に沈む夕陽  二人は、どんな想いで眺めたことでしょう

 そして坂田峠を経て、親不知・日本海へ。到着は、午後5時20分頃。

 朝日小屋を出発してから、作業をしたり、二つの小屋や水場を確認したりしながら、歩き通して約12時間弱。よく頑張りました!!!

 そして今日、無事に朝日小屋に戻って来た二人デス!!!

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ガリの履いていた靴  泥んこまみれのその様子が、“奮闘”の後を物語る  

 私は、とにかく朝日岳に通じるそれぞれのコース・登山道は、管理人はもちろんですが、アルバイトのみんなにも歩いてもらいたいと思っています。

 何より登山者の皆さんに、より親身になって、また時には少々厳しい態度で接することが出来ること、そして登山道の整備をはじめ安全登山の指導と遭難救助に力を発揮するには、自分自身でルートを何度も歩いて、コースを熟知していてこそという思いがあるからです。

 しかし、小屋開け直後の頃には、主に近い場所を中心として雪渓(残雪)の処理やら登山道の整備が中心となって、なかなか遠くまでは出掛けられません。
 行っても、蓮華温泉方面は白高地沢まで、白馬岳方面は夏山事前パトロールへの参加が主になってしまいます。

 もちろん超繁忙期の間は、小屋の仕事が忙しく、なかなか遠出の時間もままなりません。
 草刈りも、ルートの途中まで(受け持ち区域、それもかなり長い距離ですが)のことが多いのです。

 特に小屋にとっては、大事な番頭さんと料理長ですから、ちょっと小屋を空けることも難しいのです。

 ですから、1泊2日、小屋に戻るまで丸3日必要で、しかも体力的にかなりハードな栂海新道を歩いてくるようなチャンスには、なかなか巡り合えません。

 今回は、本当に良い機会でした。

 …「可愛い子には、旅をさせろ」、こんな親心(“社長”心)が、彼らには通じているでしょうか…

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「文子の池」を過ぎた辺りで、黒岩山・黒岩平・長栂山方向を振り返る