北アルプス 朝日小屋

朝日小屋 TEL 080-2962-4639(衛星電話)
北又小屋 TEL 0765-84-8809
開設期間外 朝日小屋連絡所
 〒939-0711 富山県下新川郡朝日町笹川 清水ゆかり
 TEL & FAX 0765-83-2318

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今シーズン前、最後の山行は「白鳥山」

2002-05-20

白鳥山山頂にて記念写真 Yさん、Uさん、Aさん、私  
                      photo by “siratori reiko(?)”

 6月中旬の小屋開けまでひと月前足らず、そろそろ身辺が慌ただしくなって来ました。オフの間はあっちこっちウロウロと他の山を歩いていましたが、昨日はいよいよシーズン前最後(になるだろう)の山行に出掛けて来ました。
 目指すは、新潟県境の人気の山・白鳥山です。一緒に登ったのはいつもの気の合う仲間、私を入れて4人。
 今年初めて10Kマラソンにも出場し自分自身に飽くなき挑戦をしているYさん、最近少々(幸せ)太り気味で今年初めての山登りにドキドキしているAさん、そしてウロウロそこいらの山を歩き回っている割にはちっとも“山登り用体力”が付かずに、山へ行っては脂肪ばかり付けてしまっている私の3人が、「。。。なんでこのオレが山へ行くはめになったんだ!?」と思っている初心者Uさんを連れて、白鳥山へ登って来ました。
 実は、他の仲間にそそのかされて(笑)7月に朝日岳登山を約束させられてしまった初心者のUさん、彼をぜひ一度「山」という場所へ連れて行って足慣らしをしてもらい、またその実力を確かめ、夏に備えようというのが今回の目的でした(笑)。
 集合場所へ集まったUさんの格好は、どう見てもそこいら辺のハイキングへ出掛ける“シティーボーイ”風(!?)。中学生の娘さんから借りてきたというザックは「お父さん、汚さないでネ」と言われてきたらしいのですが、本人はもちろん、他の3人も不安と期待でいっぱい。。。
 5月の連休が明けてからの富山県地方は、まるで梅雨に入ってしまったかのような不安定なお天気が続き、“晴れ男”を自認するYさんの神通力も?でしたが、何とかくもり空でのスタートとなりました。
 途中“林道山姥線”が通行止めでしたが、行ける所まで車を乗り入れ、坂田峠まで約30分近く歩きました。いきなり「金時坂」の急登はキツイので、ちょうどほど良いウオーミングアップになったようです。
 何しろ「近所の棚山しか登った事がない。それも未だ“征服”しきれていない」と常日頃から口にしているUさん。何のことはない、「棚山」とは近所のゴルフ場のこと(笑)。歩き始めても、どうも後ろから観察していると、一歩一歩の足の置き場にかなり苦労している様子。でも仕方がありません、とにかく全くの初心者なのですから。。。
 いつものゆっくりゆっくりペースながら、予想していた(?)弱音も吐かず、先頭のYさんに一生懸命付いていこうとしている姿は、かなり健気です。しばらく歩いてもそれ程息も切れていないし、自分からは休みたいとも言わないし(言えなかったのかなぁ)…。これなら大丈夫かしら?
 昨年5月20日に登った時は登山道もあまり出ていなくて、山頂直下はもちろん、全体に未だ雪がかなり残っていましたが、昨日の白鳥山はほとんど夏道を歩く事が出来ました。“シキワリの水場”付近の谷筋に少し雪もありましたが、それでも夏道を横切っている残雪はほんの数メートル余りで全く気になりませんでした。
 “シキワリの水場”付近などには「シラネアオイ」が早くも花を咲かせ、ツツジやタムシバも色鮮やかな姿を見せてくれました。また山頂下の登山道や小屋の周りには、紫色のカタクリが一面に咲いていました。
 坂田峠から約3時間で白鳥小屋到着。記念撮影を済ませ、小屋の2階に上ってビールで乾杯し、早速ご馳走の準備に取り掛かりました。「白鳥小屋で、すき焼きを食べよう!」を合言葉に重たい材料を担ぎ上げての山行、賑やかに「宴会」が始まりました。
 この山行を計画するに当たって他の3人は、「初めて連れて行くには、どこの山が適当だろう?彼の地元の負釣山がいいかな、それとも白鳥山?でも、もし連れて行って“もう2度と山は行きたくない”と言われたら困るし、う〜ん。。。」と悩みました。しかし登って来てみると、例のUさんは私達の予想に反して(?)まんざらでもない様子。白鳥山からの眺望は今ひとつで、肝心の朝日岳も見えませんでしたが、それでも「これが雲海か、我等雲の上の人だな」等と余裕の表情!
 ゆっくり3時間も楽しんだ「雲上の宴会」も、そろそろ山を下りる事を考えるとお開きにして、帰り支度を始めました。しかし、ちょうど出発間際になってパラパラと小雨が振り出しました。本降りになる前に下山です。
 ここ数日お天気が悪く、やっとさえ雪融けでぬかるんでいる山道は“ぐにゅぐにゅ・ツルツル”して歩きにくく、またとても滑りやすくなっていました。とにかく無事下山が第一ですから足元に気を付けて、慎重に歩きます。ちょっと初心者には可哀想でしたが、それでもストックを衝きながらUさんは一生懸命歩きます。ちょっと“福山雅治”に似ている(と言われている)シティーボーイも、何度かスッテンコロリンしてお尻は泥んこになりましたが、「登りよりも降りる方が大変だなぁ」と言いながらも「ヨシッ!ヨシッ!」とひとり言のように掛け声を掛けながら、とにかく無事坂田峠を経て車まで帰着する事が出来ました。白鳥小屋から慎重に下りて、坂田峠まで約1時間45分。
 Uさんの感想は?…大丈夫、次の朝日岳登山に向けて「心の準備」はもちろん、決意もしっかり出来たようです。「夏山が、一面のお花畑が待っているよ!今度は小屋で会いましょう!!」

今年の小屋開けは、6月16日(日)の予定

2002-05-20

白鳥小屋2階から眺める、犬ヶ岳方面

 昨年小屋を閉めて下りて来てから、私なりのペースでいろいろな山を歩きました。
 黒薙川上流部にある「幻の大桂」、薬師岳太郎平小屋・北ノ俣岳、中俣新道を黒岩平まで、黒部峡谷・下の廊下、白鳥山〜犬ヶ岳、負釣山、南保富士、初雪山、白鳥山〜犬ヶ岳〜黒岩平、剣御前…。白鳥山や負釣山へは何度も登って来ました。
 その全てをこの日記に載せて来ましたが、如何でしたか?
 シーズンオフは他の山小屋も閉まっている関係で、ほとんどは低山が中心でしたが、いろいろな山に登って、山を歩く登山者の皆さんの気持ちに少しでも触れたり近付く事も出来て、本当に素晴らしい経験をする事が出来ました。私なりに、実りの多かったシーズンオフになったと思います。
 今まで登った事のなかった「春山」や、先日は人工壁のクライミングなども経験したりして、山小屋管理人としての気構えや心構え、知識等を吸収する事も出来ました。また、他の山小屋に泊った事により、自分の小屋をどんな山小屋にしたいか、どんなサービスが喜ばれるだろうか…いろいろ考える参考にもなりました。
 今シーズンの朝日小屋は、6月16日に荷上げとスタッフの上山でスタートする予定です。あとひと月足らずになりましたが、ウロウロしていた分(笑)ダッシュで頑張る予定ですので、これからも応援していて下さい。では。

siratori reiko さま  

2002-05-20

 車を止めた場所から、抜きつ抜かれつして登って来た4人組の皆さんです。朝日小屋の話をしていたら、「朝日小屋の!?…わーっ、テレビで見ました!!」と言って下さいました。「ビデオにもとったんですよ」と嬉しいことまで。
 どこのどなたか、ちゃんとお名前をお聞きしなかったのですが、白鳥小屋の2階に『帽子』が忘れてありましたが、きっと皆さんのグループのですよね!?もしこのホームページをご覧になったら、ぜひご連絡を下さい。
 きっと、「女性の年齢が分からない」貴女のかしら?
 お送りしましょうか?それとも朝日小屋まで取りにいらっしゃいますか??

(追記) キャー!あの姿が新聞に。。。

2002-05-20

 人工壁を登り終え、ナントもいえない笑顔の私  photo by nyama

 昨日の朝は、白鳥山へ行く準備の為ゆっくり新聞を読んでいる時間もなく、帰って来たらちょっと疲れてチラチラ見た程度。今日になって、「あれ、土曜日の合同訓練に報道関係の人たちが何人も来ていらっしゃたのに、載っていなかったのかなぁ」と新聞を引っ張り出してみると。。。
 ちゃんと出ているじゃないですか、地元の北日本新聞に…ギョギョ!!あれ〜、コレ私じゃない、ヤメテよ、なにこの姿、へっぴり腰、…
 本当に壁にしがみ付いている「ぎゃわず(富山弁でカエルのこと)」のようで、恥ずかしい〜!
 加えて横で見本を示しているのが、横山分隊長なんて。
 訓練の様子だから、一番上手なお手本と、初心者の一番へたくそな私のツーショットがシャッターチャンスだったわけ!?

あのてらちゃんが…プツンとキレた!!

2002-05-23

剱岳山頂より、朝日岳遠望      02.5.3   

 GWの期間中剱岳方面へ警備に入っていた、県警山岳警備隊・横山 隆分隊長撮影
 当日は、剱御前〜別山尾根〜本峰南壁A2稜〜剱岳山頂〜別山尾根下山から剱御前をパトロールされたそうです。

 昨シーズン、朝日小屋にアルバイトに来ていたてらちゃんについてのエピソードは、この日記の中でも何度も取り上げて来ました。その温厚で純情な性格、そして柔和な雰囲気は皆さんにも良く伝わっている事と思います。もちろん、彼の怒った顔なんて見た事がありません。
 そのてらちゃんが、ある日、プツンとキレました。。。
 あれは確か8月上旬だったでしょうか、まだ夏山最盛期で朝日小屋も忙しい毎日が続いていた頃。その日も予約が結構入っていて、登山者の皆さんに快適な山小屋でのひとときを提供するべく、アルバイト部屋もきれいに掃除をしてお客様に明け渡し、前もってアルバイトのみんなは荷物を持って別の場所へ移動していました。山小屋ではよくある話です。
 通称「カモシカ」と呼んでいるその部屋は、小屋の建築構造上ちょっと不便な場所にありますが、アルバイト部屋とはいえ居ながらにして海に沈む夕陽を眺められるし、日本海の漁り火も一望できる、若い子たちお気に入りのなかなかの部屋なんです。
 部屋掃除の時に空気の入れ替えをしようとしたのですが、外に通じるドアの鍵がどういう訳か開きません。一生懸命最後までドアを開けようと挑戦してくれたてらちゃんでしたが、ウンともスンともどうにもならず、そのうち午後からの準備が始まってしまい、部屋は空気の入れ替えが出来ずじまいでした。ちょっとムッとしていたかもしれません…。
 その日「カモシカ」に入っていただいたのは、30名ほどのツアーでいらっしゃったお客様。結構遠くからおいでになっていましたので、私としては皆さんがちょうどひと部屋に入れるし眺めも良いので、「特別室」のつもりでご案内させていただきました。
 到着されたお客様の受付や応対に追われ、売店の仕事そして夕食の準備にと、小屋中がバタバタと慌ただしくしていた時間だったと思います(私は少し後から報告を受けたのですが…)。
 その「カモシカ」に入られた団体のお客様のうちのお一人が、夕刻、ちょうど食堂付近にいたてらちゃんに。。。
『あのお部屋、西陽が当たって暑いんですけど、クーラーはないんですか!?』
 てらちゃん、そこでひと言。。。
『ここは山小屋なので、クーラーなんか、ありません!!』
 その後、うちの娘たちから報告がありました。「お母さん、てらちゃんがマジでキレていたよ。あのおとなしいてらちゃんが」…てらちゃんの事ですから怒鳴るわけもなく、よほど気持ちを押さえていたに違いありません。しかしキッパリとした返事をしたようです。
 そうなんです、朝日小屋は『山小屋』なんです。標高2,150mの不便な山の中にポツンと建つ、しかし下界では決して味わえない涼風の吹く北アルプスの最北端にある山小屋です。  
 申し出を受けたてらちゃん、その後も一生懸命ガタガタやって、やっとドアを開ける事に成功しました。
 朝日小屋にクーラー?? もちろんあるわけないじゃないですか。。。

「山小屋」について

2002-05-23

朝日小屋のキャッチフレーズは
  『静けさの中、咲き誇る花たちとの感動の出会い』

 GWが明けてから毎日のように、今シーズンの予約やお問合せのお電話を頂いています。宿泊や登山ルートその他について、いろいろな質問をお受けする事もあります。
 宿泊申し込みの中で一番多いのは、やはり「個室はありませんか?」というものです。予約の段階では、「申し訳ありませんが、何しろうちは小さな山小屋ですから個室はないんですよ。すみません。」と丁寧にお答えしています。
 しかし、一番困るのは小屋に到着されてから「ねぇ、いくらお金払っても良いから個室にしてもらえない?」「物置みたいな所でも構わないから、個室を用意してよ」…中にはお部屋にご案内してから「部屋に入ったら、男の人がいるじゃない。私達困るワ!」。。。(絶句!)
 私が小屋の“看板娘”を自認していた(笑)20年前とは、全然違います。
 今は、なるべく男女が別室になるように気を配ったり、どんなグループの組合せがベストかいろいろ考えたり、繁忙期にどうしても一枚のお布団をお二人で使用していただく時には(朝日小屋は、どんな最盛期でも1枚2人まで)同性の組合せになるように、とにかく細かくチェックをしています。
 それでも完全予約制ではないので、到着順に部屋割りをしている間には、いろいろ思いがけない事になる場合は避けられません。受付の仕事は、それ程細かく気を使います。
 先日、剱御前小舎に妹と一緒に泊った時のこと。
 剱御前小舎は水の無い場所に建っていますから、飲み水はペットボトルの飲料水を販売していますし、お客様ももちろんそれを承知で宿泊していらっしゃいます。トイレを利用しても手洗いの水はなく、消毒液が置いてあります。
 朝になって、さあ顔を洗いましょう歯を磨きましょうと、持参した水を持っていこうと思ってみたものの、「洗面所」というものがないのに気付きました。「あれ、そういえば洗面所がなかったね。そうか、口をゆすいでも吐き出す場所がないんだ…」
 そうなんです。剱御前小舎では、私達が日常当たり前と思っている生活は、当たり前ではないのです。後日、小屋に常駐する事のある県警山岳警備隊の人に聞きましたら「僕たちも歯を磨きますが、ちょっと抵抗はありますけど、その汚水は便器に捨てるんですよ」
 個室の有無といい、水の有無といい、特に小さな山小屋ではいろいろな制約や不便な事もあるとは思いますが、登山者の皆様にはいろいろご理解を頂きたいと思います。その上で、山小屋としても出来る限りお客様の要望にお答えできるように努力していくつもりでいます。

山歩きは「自己責任の世界」、そして「己の実力次第」

2002-05-23

朝日小屋前より、雪倉岳・白馬岳・旭岳の眺め

 よく「山歩きは自己責任の世界、そして各々の実力次第」というような意味の事を言います。まさにその通りですね。自分がウロウロ少し山を歩くようになって、その意味が良く分かるようになりました。
 その点からいくと、最近のお電話でのお問い合わせの中には、一体どうお答えしたらいいのか分からないような質問も時々あります。
 “山と渓谷”6月号に、「何故増えた山の事故」というテーマで緊急企画が組まれ、長野・岐阜・富山3県の県警山岳警備隊長が座談会形式でいろいろお話をしておられます。その中で「私でも大丈夫ですか?」式の質問がメールや電話で寄せられると書いてありましたが、最後には「あなたの体力、技術、経験などがわかりませんので…」となってしまうと、各担当者がおっしゃっています。
 そうなんですね…、私にも質問していらっしゃる登山者の皆さんの気持ちがわからないわけではありません。
 しかし、例えば白馬岳〜朝日岳〜蓮華温泉のルートが「健脚向き」と書いてあったところで、それがどの程度のものなのか。コースタイムよりずっと遅れてゆっくり歩き、その上お花畑に感激しすぎて休み時間が長くなり12時間もかかりました、とても大変でしたという人もいれば、白馬岳を早朝に出発したら(早い人なら4・5時間で歩く人もいますから)、朝日小屋の前でひと休みして昼食を摂り、その日のうちに北又まで下山してしまう人もいます。
 また、白高地沢には仮橋が掛かっていますが、昨年も梅雨明け直前の増水時に橋が流出し、やむなく復旧するまで徒渉をしなくてはいけないような日(たしか1〜2日)がありました。同じ日の同じ時間帯に白高地沢を通過された登山者の方で、40代の方でも「いやあ、大変でした。1時間も徒渉地点を探し回って、死ぬ思いで渡って来ました」という人もいれば、60半ば過ぎでも山歩きに慣れた単独の登山者なら「まあ、大した事はありませんでした。靴も濡らさずに渡れましたから」とさらりとおっしゃる方もいます。
 あるいは、蓮華温泉から鉱山道というルートはあまり通る人もいないので魅力のあるコースではありますが、昨年朝日小屋に予約のお電話をいただいた方(60代のご夫婦)に「コースは?」とお聞きしたところ「蓮華温泉から鉱山道を来ます」との返事。
 「あそこは残雪時にはルートが分かり難いですし、徒渉もあります。利用される方も少ないので、もしもの場合には、助けを求めてもどうにもならないかもしれません。それでも大丈夫ですね?」と言いましたら、「えっ、徒渉っていうと、川を渡るんですか?お父さ〜ん、川を渡るんだってさあ!」…(と、電話口でお父さんを呼ぶお母さんの声)
 と思えば、「本で読んで、どうしても今年は朝日小屋に行きたいと思っているんですけど、私はどこから行くのが一番良いんでしょうね?」。。。(またまた、絶句!)
 お客様からのご質問にはなるべく丁寧に、わかり易くお答えしたいと思っているのですが、中にはご自分の登山歴から始まって延々と、途中で山歩きを中断した経緯まで詳しく話してくださるオジサマまでいらっしゃるのです。。。
 「山は、自己責任と実力次第」…この基本的な考え方と構図には今後も変化はない、と思って間違いはないのではないでしょうか。

「栂海新道」

2002-05-24

黒岩山直下、「栂海新道」と「中俣新道」の分岐点に建つ標識  01.10.21

 「岳人」6月号に「尾根、沢から花物語の旅」という特集記事が載っています。その中で平石武仁氏が『北アルプス・栂海新道 花きらめく池溏から波きらめく日本海を目指して』と題して文と写真を載せておられます。
 平石さんには、昨秋私が主治医のY先生と一緒に中俣新道から黒岩平までを案内していただきましたし、3月には白鳥山へも連れて行っていただきました。糸魚川のいりやま岳友会に所属し、またさわがに山岳会会友として活躍しておられる岳人で、栂海新道の登山道整備にも携わっていらっしゃいます。
 栂海新道についての詳しい紹介はぜひ平石さんの文章を読んでいただきたいのですが、やはりこのルートが愛され続ける魅力は、何といっても「3,000mのアルプスの頂から海抜0mの日本海へ」抜けるコースであるという事と、何よりも照葉の池やアヤメ平、そして黒岩平へと続く高山植物の咲き乱れるまさに「雲上の楽園」であるという点だと思います。
 4月末のGW中に私も犬ヶ岳〜黒岩平を歩きましたので、あとは坂田峠〜日本海までを繋げれば「栂海新道」を貫通させる事が出来ます。 
 今年の予約状況をみていると、栂海新道を歩くコースを選んでいらっしゃるお客様が結構増えているように感じます。
 前からも書いていますが、20年前は大学や社会人山岳部の夏山合宿で栂海新道を歩くという方が多かったのですが、最近はガイド付きのツアーもありますし、また大きな荷物を担いだテント泊ではなく朝日小屋までは2食プラスお弁当付きの小屋泊まり、真夏なら栂海山荘で毛布を借りるのでシュラフも持たずにというケースもみられます。多くの登山者の皆さんが、そんな魅力溢れるコースを楽しんでいらっしゃるのは、それに繋がる山小屋の管理人としても嬉しい事に違いありません。
 しかし、一度栂海新道を歩いた方、あるいはこれから歩いてみようと思う登山者の皆さんには、多くの人たちのボランティアと「さわがに山岳会」の小野 健さんの私財を注ぎ込んだ永年に亘る努力のお陰で、あの歩き難い細尾根やアップダウンの激しい登山道がキチンと整備されているのだという事をぜひ知っておいてもらいたいと思います。
 栂海新道は昨年、開拓から30周年を迎えました。その開拓の歴史には多くの困難やいろいろなご苦労もあっただろうと、関係者の皆様にはただ頭が下がる思いです。
 平石さんも「岳人」の文章の中で書いていらっしゃいますが、栂海新道を歩かれる方々には、ぜひこの道を長く大切にしていただきたいと強く願います。
 いつまでも『雲上の楽園』をそのままに…私からもお願いします。